Rule of 40を5分で理解する|マーケ・ファネル用語集

Rule of 40』という言葉は、マーケティングやコンテンツビジネスの現場で頻繁に使われます。しかし、その正確な意味や設計の要点まで理解されているケースは多くありません。

株式会社Cameenです。本記事は当社の運用知見をもとに解説します。

この記事でわかること
  • Rule of 40とは「売上成長率と利益率の合計が40%を超えるかで健全性を判定する経営指標」のこと
  • 本質は「成長と収益性のバランスを1つの数字に圧縮する物差し」であって絶対基準ではない
  • Rule of 40を構成する2つの要素(成長率・利益率)の定義と計算の落とし穴
  • SaaS業界で実際に使われている5要件(計算式・指標定義・閾値解釈・段階別適用・限界点)
  • Rule of 40を自分の事業に応用するときの判断軸と注意点

近年、SaaSスタートアップの上場ラッシュとともに、「Rule of 40」「ARR」「Net Revenue Retention」「Magic Number」、こういうSaaS経営指標が日本のスタートアップ界隈でも当たり前に語られるようになりました。米国SaaS市場の成熟度がそのまま日本に輸入されてきている流れです。

では、いざ「Rule of 40って具体的に何の数字?」「分子と分母はどう取るんですか?」「40を下回ったら本当にダメな会社なのでしょうか。」と聞かれると、答えに詰まる方が多いのです。「成長と利益のバランス」というふんわりした理解で止まって、計算式の定義や閾値の解釈基準まで踏み込めていない。こうした課題は、多くの事業者に共通します。

当社はコンテンツビジネスが主軸でSaaS事業を運用しているわけではないんですが、クライアント案件でSaaS経営者のIR資料・投資家ピッチ・経営会議を観察してきましたし、業界の上場SaaS各社の決算開示を継続的に追ってきました。その中で見えてきたのは、Rule of 40は「使い方を間違えるとミスリードを起こす指標」だということ。数字だけ追って事業判断するツールではなく、構造を理解した上で他指標と組み合わせて使う物差しです。

もう1つ繰り返し観察したのは、「Rule of 40を満たすために短期的な利益率調整に走るスタートアップ」が一定数いるという事実。広告費を絞って利益率を見かけ上引き上げ、Rule of 40スコアを40%超に持っていく操作は技術的には可能です。でもこれをやると将来の成長率が落ちて、結果的にRule of 40スコアも崩れる。指標は手段であって目的ではないのです。

今回はその「今さら聞けないRule of 40」を、業界一般の知見から、計算式の定義と現場での使い分けまで深掘りしていきます。読み終わる頃には、自社事業の数値で簡易計算ができて、SaaS各社のIR資料を見ても数字の意味が腹落ちするレベルになっているはずです。

目次

結論:Rule of 40の核心は「成長と利益のバランス指標」であって絶対基準ではない

結論

Rule of 40は、よく「SaaS企業の健全性を判定する数字」と説明されるんですが、これだとRule of 40の本来の役割が見えません。本当の意味はもっと別のところにあるのです。

Rule of 40の本当の正体は、「売上成長率と利益率の合計が40%を超えるかどうかで、成長と収益性のバランスを1つの数字に圧縮して捉えるための経営指標」のこと。絶対的な合格ラインではなく、複数のSaaS企業を横並びで評価したり、自社の経年推移を観察したりするための物差しです。

計算式は単純です。「売上成長率(%) + 利益率(%) ≧ 40」。例えば成長率30%・利益率15%なら合計45%でRule of 40クリア。成長率50%・利益率マイナス10%なら合計40%でギリギリ通過。成長率15%・利益率20%なら合計35%で未達。この単純な足し算で、成長重視型と収益重視型を同じ土俵で比較できるのが指標の妙味です。

業界の体感として、Rule of 40を提唱したのはベンチャーキャピタリストのBrad Feld氏(2015年頃)とされています。それ以前からSaaS業界では似た指標は使われていましたが、「40」という具体的な閾値を明示したことで、投資家・経営者・アナリストが共通言語として使えるようになりました。今では米国SaaS企業のIR資料に高頻度で登場する標準指標です。

Rule of 40の真の価値は数字そのものではなく、「成長フェーズではマイナス利益でも許容され、成熟フェーズでは高利益が求められる」というSaaSビジネスの段階的特性を1つの指標で表現できる点にあります。創業初期の赤字SaaSでも成長率が高ければRule of 40を満たせるし、低成長の老舗SaaSでも高利益率なら満たせる。事業フェーズに依らない共通の物差しです。

なぜ「40」という数字なのか。指標の成り立ちを掘り下げる

もう少し深く掘ります。なぜこの指標は「40」という閾値なのか。成り立ちを整理します。

「40」という数字の根拠は、米国SaaS業界の上場企業のデータ分析から導かれた経験則です。Bessemer Venture Partners・KeyBanc Capital Markets・OpenViewなどのVCがSaaS各社のデータを継続的に集計してきた結果、「成長率+利益率が40を超える企業は時価総額の成長率が高く、株主リターンも高い傾向がある」というパターンが浮かび上がったんですね。

Rule of 40の概念は、米国で2015年前後に整理され始め、2020年以降に世界の標準的なSaaS指標として定着しました。コロナ禍でSaaS銘柄が一斉に上場・株価上昇した2020〜2021年に、投資家がSaaS各社を横並び比較する物差しとして急速に普及したのが背景です。

日本でも、2020年以降のSaaS上場ラッシュとともに、Rule of 40が経営指標として認知されてきました。マネーフォワード・freee・Sansan・Chatworkなど、上場SaaS各社が決算説明会でRule of 40を開示するケースが増えています。日本のSaaS市場が米国モデルを輸入する過程で、指標もそのまま採用された形です。

業界の体感として、Rule of 40を満たす上場SaaS企業の比率は、米国でも全体の30〜50%程度。日本ではさらに低く、20〜40%程度というのが業界アナリストの観測値です。つまり「40を超えるのは難しい」のが業界の現実で、超えていれば優秀、未達でも事業フェーズによっては許容、という解釈が標準的です。

近年は、Rule of 40の派生指標として「Rule of X(成長率を3倍重みづけして利益率を加算)」「Magic Number(売上増加額÷マーケ営業費用)」「Burn Multiple(キャッシュ消費量÷ARR増分)」、こうした派生指標が登場しています。Rule of 40は普遍ではなく、業界の知見蓄積とともに進化し続ける物差しです。

業界の進化として、Rule of 40の計算式における「利益率」の定義も精緻化しつつあります。純利益率・営業利益率・FCFマージン・EBITDAマージン、どれを使うかで数字が大きく変わるため、企業ごとに「どの定義で計算したRule of 40か」を明示する文化が定着してきました。指標の透明性が問われる時代です。

Rule of 40の現場で何が見られているか

Rule of 40が実際の経営現場で、どう使われているか。5段階で整理します。

ステージ1:経営者・CFOが自社の四半期ごとの数値を計算

SaaS企業の経営者・CFOが、四半期決算ごとに自社のRule of 40スコアを算出します。前年同期比の売上成長率と当期の利益率を足し合わせる単純計算ですが、定義の取り方で数字が変わるため、自社の標準ルールを定義しておく必要があります。

具体的には「成長率はYoY売上成長率」「利益率はFCFマージン」というのが米国SaaS業界の最大公約数。日本企業ではFCFマージンより営業利益率を使うケースが多いです。どちらが正しいではなく、自社の判断軸を一貫して使うことが重要です。

ステージ2:投資家・アナリストが企業評価で使う

機関投資家・セルサイドアナリスト・VCが、投資判断や時価総額評価でRule of 40を参照します。同業他社との横並び比較、過去四半期の推移観察、業界平均との乖離度合い、こういう角度で数字を読み解きます。

機関投資家がRule of 40を見るときの典型的な視点は3つ。(1)現在値が40を超えているか、(2)推移が改善方向か悪化方向か、(3)成長率と利益率の構成比は健全か。単純な40超え未達だけでなく、トレンドと構成バランスまで見るのが熟練投資家の作法です。

ステージ3:取締役会・経営会議でのKPI議論

SaaS企業の取締役会・経営会議で、Rule of 40が重要KPIとして議論されます。「成長率を上げて利益率を犠牲にするか」「利益率を維持して成長率を抑えるか」、こういうトレードオフ判断の物差しとして使われます。

取締役会では「Rule of 40の目標値」を明示するケースが増えています。「次四半期に45%」「年度末に50%」というように具体目標を立てて、マーケ投資の配分・採用ペース・価格戦略を逆算する。指標が経営の北極星として機能している現場です。

ステージ4:IR資料・決算説明会での開示

上場SaaS企業のIR資料・決算説明会で、Rule of 40スコアが投資家向けに開示されます。Salesforce・HubSpot・Zoom・Atlassianなどの米国大型SaaSは、四半期決算で必ずRule of 40を提示。日本のマネーフォワード・freee・Sansanも追随しています。

IRでの開示時には、計算式の定義(YoY成長率+FCFマージン or 営業利益率)を必ず明示するのが業界のマナー。定義が違う企業同士を単純比較すると誤った判断につながるため、開示の透明性が投資家信頼の基盤になっています。

ステージ5:M&A・出口戦略での評価材料

SaaS企業のM&A・PE buyout・IPO評価でも、Rule of 40が重要な評価軸になります。買い手側のDD(デューデリジェンス)で、対象企業のRule of 40推移を分析し、買収後のシナジー算定や評価額交渉の材料として使われます。

業界の体感として、Rule of 40が安定して40超を維持しているSaaS企業は、買収プレミアムが20〜40%上乗せされやすい傾向。逆に20%台で低迷している企業はバリュエーション交渉で不利になります。M&A市場でも指標の影響力が増大している領域です。

身近な話で全体像をつかむ

ちょっと身近な話で、全体像を掴み直しましょう。

カフェの経営に置き換えてみます。あなたが個人カフェを経営しているとして、店舗の健全性を測りたい。売上が前年比で何%伸びているか、店舗利益率は何%か、この2つの数字を見て経営判断します。

選択肢は2つ。(1)売上を伸ばすために広告・新メニュー開発に投資する(成長重視・利益率低下)、(2)コストを絞って利益率を維持する(利益重視・成長率鈍化)。両方同時に追うのは難しいから、どこかでバランスを取る必要があるのです。

このバランスを数字1つで表現するのがRule of 40の発想です。例えば「成長率15%+利益率25%=合計40%」「成長率30%+利益率10%=合計40%」、どちらも合計値が同じ40で、経営の健全性は同等と判定する。成長重視か利益重視かを問わず、トータルでバランスが取れているかを見る物差しです。

SaaS業界の例として、Salesforce(成熟期)は売上成長率15%程度・利益率25%程度でRule of 40を維持。一方、創業期のスタートアップは売上成長率80%・利益率マイナス40%で同じく合計40。事業フェーズが全然違うのに、同じ物差しで「健全」と評価できる。これがRule of 40の便利さです。

ただ、この物差しは万能じゃありません。カフェの例で言うと、「広告を急に止めて利益率を見かけ上引き上げて合計40を達成」しても、半年後には顧客が減って成長率が崩れて結局合計40を割り込む。指標を満たすために本質を犠牲にすると、長期的には指標自体が悪化する。Rule of 40は短期操作には強いが、長期で見ると経営の質そのものが問われる物差しです。

Rule of 40を構成する5要件

5要件すべてを把握して初めて指標を使いこなせる”} –>

Rule of 40を正しく使うには、指標を構成する5つの要件を理解する必要があります。計算式・指標定義・閾値解釈・段階別適用・限界点、この5要件を押さえれば、SaaS各社の数字を腹落ちさせて読めるようになります。

要件1:計算式の定義

基本式は「売上成長率(%) + 利益率(%) ≧ 40」。シンプルな足し算ですが、両者の単位と期間を一貫させるのが鉄則です。YoY成長率なら利益率もYoY期間、四半期成長率なら利益率も四半期、と期間を揃えます。

計算式のバリエーションとして、「ARR成長率+FCFマージン」が米国SaaS業界の主流。日本では「売上成長率+営業利益率」を使うことが多いです。どちらも正解で、業界慣行や開示文化の違いを反映しています。重要なのは「自社・自業界の標準定義を一貫して使うこと」です。

要件2:成長率の指標定義

成長率の指標として使われるのは主に5つ。(1)売上(GAAPベース)YoY、(2)ARR(Annual Recurring Revenue)YoY、(3)MRR(Monthly Recurring Revenue)年率換算、(4)Bookings(契約締結ベース)YoY、(5)NRR(Net Revenue Retention)。どれを使うかで数字が変わります。

米国SaaS業界の標準はARR成長率。サブスクリプション収益の年率換算値を使うことで、一時的な売上(プロフェッショナルサービス・コンサル収益)を除外し、リカーリング収益の純粋な成長を測ります。日本では会計開示の都合上、GAAP売上成長率を使うケースが多い。

要件3:利益率の指標定義

利益率も複数の定義があります。(1)営業利益率、(2)EBITDAマージン、(3)FCF(フリーキャッシュフロー)マージン、(4)Non-GAAP営業利益率(株式報酬除外)、(5)Adjusted EBITDA(一時要因除外)。それぞれ数字が大きく異なります。

米国SaaS業界ではFCFマージンが標準。実際の現金創出力を測るため、株式報酬による会計上の費用を除外し、設備投資も加味した数字です。日本では営業利益率かNon-GAAP営業利益率が主流。FCF開示文化が米国ほど浸透していないのが理由です。

要件4:閾値の解釈基準

40という閾値は絶対基準ではなく、業界アナリストの間でも複数の解釈レンジが存在します。「30未満は要警戒」「30〜40は許容範囲」「40〜50は健全」「50超は優秀」「60超は卓越」、こういう5段階解釈が業界の最大公約数です。

閾値の解釈は事業フェーズによっても変わります。創業3年以内の急成長期スタートアップは「成長率優先で利益率マイナスでも合計40超を狙う」のが標準。上場後10年経過の成熟SaaSは「利益率主導で合計40を維持する」のが標準。同じ40でも構成が違うのです。

要件5:指標の限界点と他指標との組み合わせ

Rule of 40だけで経営の健全性は完全には測れません。顧客獲得コスト(CAC)、ライフタイムバリュー(LTV)、Net Revenue Retention(NRR)、Magic Number、Burn Multiple、こうした補完指標と組み合わせて初めて全体像が見えます。

業界の標準的な組み合わせは「Rule of 40+NRR(110%超が優秀)+Magic Number(1.0超で健全)+CACペイバック期間(12ヶ月以下が優秀)」の4点セット。Rule of 40はあくまで入口の物差しで、深い分析にはセットの補完指標が必須です。

Rule of 40の解釈で間違う典型3パターン

業界の事例観察から見えてくる、Rule of 40の解釈ミスの典型パターンはこの3つに集約されます。

パターン1:計算式の定義を統一せず横並び比較してしまう

もっとも多い解釈ミスです。A社は「ARR成長率+FCFマージン」、B社は「売上成長率+営業利益率」で計算しているのに、両社の数字を同じ土俵で比較してしまうパターン。定義が違えば数字も全然違うので、見かけ上の優劣判定が完全にミスリードになります。

本来は、比較対象企業の定義を必ず確認してから横並びにします。同じ「Rule of 40 = 45%」でも、定義が違えば実態の経営の質が大きく異なるのです。IR資料の脚注を読み込んで、定義を揃えてから比較するのが業界の作法。アナリストが書いたレポートを読むときも、計算定義に注釈があるか確認する習慣が必要です。

パターン2:短期的な指標操作で本質を見失う

「次四半期のRule of 40を40超に持っていく」ために、広告費を急減・採用を凍結・必要な投資を削減、こういう短期操作で見かけ上の数字を作るパターン。指標は満たしても、半年後・1年後に成長率が崩壊して、結局Rule of 40スコアが大きく悪化します。

本来は、Rule of 40を経営目標ではなく「経営健全性の事後確認指標」として扱うのが業界の標準的な使い方。マーケ投資の費用対効果・顧客維持率・新規開拓の質、こうした事業本質の指標を磨いた結果としてRule of 40が改善する、というロジックが正解です。指標を目標にすると指標で殴られる構造、これがSaaS経営の難しさです。

パターン3:事業フェーズを無視して画一的に判定する

創業3年の急成長スタートアップと、上場15年の成熟SaaSを、同じ「Rule of 40 = 40」の閾値で判定してしまうパターン。成長期と成熟期では成長率・利益率の構成バランスが本質的に異なるため、画一閾値で判定すると判断を誤ります。

本来は、事業フェーズに応じた閾値設定が必要です。創業3年以内なら「成長率主導でRule of 40 = 60超を目指す」、上場10年超なら「利益率主導でRule of 40 = 35〜45を維持」、こういうフェーズ別の解釈基準を持つのが業界の成熟した使い方。投資家側も成長期と成熟期を区別して評価する文化が定着してきました。

業界観察から見えてくる3本音

当社はコンテンツビジネスが主軸でSaaS事業を運用しているわけではないんですが、クライアント案件や業界事例の観察から、見えてきた本音をお伝えします。

本音1:Rule of 40は「物差し」であって「経営戦略」ではない

業界のSaaS経営者が共通して語る本音は「Rule of 40は物差しであって戦略ではない」という言葉。指標は経営の結果を測る道具であって、指標を満たすことを目的に経営判断するとミスリードを起こします。指標は結果指標、戦略は別途で立てるのが業界の成熟した使い方です。

業界のCFOが共通して語るのは「Rule of 40を高めるための具体的アクションは存在しない」という現実。マーケ投資の費用対効果を磨く・顧客維持率を上げる・解約を減らす・LTVを伸ばす、こうした事業本質のアクションを積み重ねた結果としてRule of 40が改善する。指標を直接攻めるアプローチは短期では効くが長期では効かないのです。

本音2:投資家が見るのは「絶対値」より「推移と構成」

機関投資家・アナリストの本音として、Rule of 40の絶対値より「過去4〜8四半期の推移」「成長率と利益率の構成バランス」を重視しています。現在値が45でも、推移が55→50→45で悪化方向なら警戒される。逆に現在値が35でも、推移が25→30→35で改善方向なら評価される。トレンドの方向性が絶対値より重要です。

構成バランスでも、成長率主導(40=成長35+利益5)と利益率主導(40=成長10+利益30)では事業フェーズも投資価値も全然違う、と熟練投資家は語ります。同じ40でも、成長率主導なら将来の利益化に期待、利益率主導なら安定キャッシュ創出に期待、という解釈になる。1つの数字に2つの情報が詰まっているのがRule of 40の妙味であり、難しさでもあります。

本音3:SaaS以外の事業に拡張するとミスリードを起こす

これは業界アナリストがよく語る本音ですが、Rule of 40はSaaS(サブスクリプション収益主体)を前提に作られた指標です。サブスク収益のリカーリング性(継続性)があってこそ、成長率と利益率の合計が経営健全性を表す。これを売り切り型事業・受託型ビジネス・コンサル業に持ち込むとミスリードを起こします。

具体的に、受託開発業ではRule of 40スコアが見かけ上40を超えていても、案件依存度が高くて翌期の売上がガクッと落ちるリスクがある。コンサル業も同じで、人材リテンションが崩れれば翌期の利益率が一気に下がる。「リカーリング収益の継続性」という前提が崩れると、Rule of 40の有効性も崩れるのです。

業界の派生として、サブスクではないが定期収益性が高い事業(SaaS-likeなビジネス、例:メディア定額会員・コミュニティビジネス・教育サブスク)では、Rule of 40の応用が議論されています。完全にSaaS指標ではないものの、リカーリング収益の比率が高い事業なら近似的に使えるという見方が広がってきました。コンテンツビジネス側でもこの議論を観察する価値はあります。

もう一つ重要なのが、Rule of 40の数字を語るときは必ず「どの収益形態の事業を前提にしているか」を明示する必要があるという点。SaaS文脈での40と、受託業文脈での40は意味が全く違う。指標を文脈から切り離して使うと、議論が空中戦になります。事業形態の前提を共有してから数字を語るのが、SaaS業界の成熟した文化です。

Rule of 40を自社事業に応用するSTEP

ここまで読んでくださった方、お疲れさまです。Rule of 40を自社事業の経営判断に応用する5ステップを置いておきます。

STEP1
自社の計算定義を決める

成長率を「売上YoY/ARR YoY/MRR年率」のどれで定義するか、利益率を「営業利益率/FCFマージン/EBITDAマージン」のどれで定義するかを最初に決めます。一度決めたら一貫して使うことが鉄則です。

STEP2
過去4〜8四半期の推移を集計する

単発の数字ではなく、過去4〜8四半期の推移を時系列で集計します。推移が改善方向か悪化方向か、構成バランスがどう変化しているか、これが絶対値より重要な情報です。

STEP3
同業他社のRule of 40と比較する

同業界・同事業フェーズの他社のRule of 40スコアと自社を比較します。IR資料・決算説明会資料・アナリストレポートを参照し、計算定義を揃えた上で横並びにします。業界平均との乖離度合いが、自社の相対的な健全性を示します。

STEP4
補完指標とセットで分析する

Rule of 40単独ではなく、NRR・Magic Number・Burn Multiple・CACペイバック期間と組み合わせて全体像を見ます。指標の組み合わせで初めて経営の質が立体的に見えるのです。

STEP5
経営アクションは指標ではなく事業本質で決める

Rule of 40の数値を直接的に動かす経営判断ではなく、顧客維持率を上げる・LTVを伸ばす・解約を減らす・マーケ費用対効果を改善する、こういう事業本質のアクションを積み上げる。結果としてRule of 40が改善する流れが、長期で機能する経営判断のロジックです。

Rule of 40は、SaaS経営の入口の物差しにすぎません。最終的にはCAC・LTV・NRR・解約率・新規開拓の質、こうした事業本質指標の積み上げが、Rule of 40を含む全体的な経営健全性を決めます。指標は結果、戦略は別物、この区別が業界の成熟した使い方です。

セットで知っておくべき関連用語
ARR(Annual Recurring Revenue)
年間契約収益。SaaS事業のリカーリング収益を年率換算した指標で、Rule of 40の成長率分母として使われる。
NRR(Net Revenue Retention)
既存顧客からの収益維持率。新規顧客を除いた既存顧客のみの収益増減で、110%超が優秀ライン。
Magic Number
マーケ・営業費用効率を測る指標。「(当四半期ARR-前四半期ARR)×4÷前四半期マーケ営業費用」で算出。1.0超が健全。
Burn Multiple
キャッシュ消費効率を測る指標。「ネットキャッシュ消費÷ARR純増」で算出。1.0以下が優秀ライン。
CAC(Customer Acquisition Cost)
顧客獲得コスト。新規顧客1人を獲得するための平均的なマーケ・営業費用。LTV/CAC比率で投資効率を測る。

よくある質問(FAQ)

Rule of 40の計算で成長率はどの数字を使うべき?

米国SaaS業界の標準はARR(Annual Recurring Revenue)成長率です。日本では会計開示の都合でGAAP売上成長率を使うことが多いです。重要なのは社内で一貫した定義を決めて、毎期同じ定義で計算すること。途中で定義を変えると推移が見えなくなります。

利益率はFCFと営業利益のどちらを使う?

米国SaaS業界の標準はFCF(フリーキャッシュフロー)マージン。実際の現金創出力を測れるためです。日本ではFCF開示文化が浅いため営業利益率を使うケースが多いです。どちらも正解ですが、定義を明示するのがマナーです。

Rule of 40が40を下回ったら投資対象として失格?

絶対的な失格ではなく、事業フェーズと推移方向で判断します。創業期で30台でも改善トレンドなら期待される、成熟期で40台でも悪化トレンドなら警戒される、こういう解釈が業界の標準です。絶対値より構成と推移を見るのが熟練の視点です。

SaaS以外の事業にも応用できる?

SaaSや定額会員型ビジネス(コンテンツサブスク・教育サブスク・コミュニティ事業)など、リカーリング収益が事業の主軸なら応用できます。一方、受託開発・コンサル・売り切り型ビジネスでは指標の前提が崩れるため、ミスリードを起こす可能性があります。事業形態を明示してから数字を語るのが正解です。

SaaS各社のRule of 40スコアの目安は?

業界アナリストの観測値ベースの目安は以下です。

スコア帯解釈該当する事業フェーズ
60超卓越急成長期の上位5%
40〜60健全成長期の標準的優良企業
30〜40許容範囲移行期・成熟初期
20〜30要改善成熟期で勢いが鈍化
20未満要警戒事業モデル見直しが必要

推移とセットで判断します。

まとめ

では、結局Rule of 40とは、こういうことです。

  • Rule of 40の核心は「成長率と利益率の合計で経営健全性を1つの数字に圧縮する物差し」
  • 計算式の定義・指標選定・閾値解釈・段階別適用・限界点、5要件をセットで理解する必要がある
  • SaaSや定額収益型ビジネスでは有効、受託・売り切り型では前提が崩れる指標

指標を満たすことを目的にせず、事業本質(顧客維持・LTV・解約率・マーケ効率)を磨いた結果としてRule of 40が改善する経営判断のロジックを意識してください。検討しているなら、自社の過去4四半期分のRule of 40を計算してトレンドを把握してみてください。

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この記事を書いた人

株式会社Cameen代表 西村温裕(Haruhiro)。2019年からコンテンツビジネスを8年運営。

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